前回はWEAR SPACEがクラウドファンディングを選んだ理由と、クラウドファンディングを始めるまでの流れについてご紹介しました。
WEAR SPACEがクラウドファンディングを選んだ理由
https://wearspace.info/286/
後編となる今回は実際にクラウドファンディングを開始する際に重要な「初動」と、実際に始めてからの進捗についてお話しします。
「初動」をつけるために重要なニュースメディアへのアプローチ
動画や画像、テキストなどのコンテンツが揃い、リターンの金額も決定すれば、いよいよクラウドファンディングのスタートです。といっても、クラウドファンディングの準備ができたらいつでもすぐにはじめていいわけではありません。それは、クラウドファンディングを始めるには「初動」がとても重要だからです。
一般的にクラウドファンディングではプロジェクトを公開した初日と2日目に支援が集まる傾向があります。また、気になるクラウドファンディングがあったのでサイトを見に来たけれど誰も支援していなかった、という状態では、せっかく気になってくれた人の気持ちを削いでしまうことにもなりかねません。そのためクラウドファンディングを始める初日にターゲットを合わせ、そこで大きく話題になるような準備も事前にしておくことが大事になります。
初動をつけるのに重要なのはなんといってもニュースメディアの掲載、その中でも特にWebニュース媒体が重要です。クラウドファンディングの場合、せっかく製品を気に入っても一般のお店で買うことはできず、専用のWebサイトから支援をする以外にありません。支援の入り口がWebサイトであるため、導線としてもクリック1つでアクセスできるWebニュース媒体の相性が高い、ということです。
メディアに取り上げてもらうための発表会を開催
ニュースメディアに取り上げてもらうにはさまざまな方法がありますが、今回WEAR SPACEはクラウドファンディング開始に合わせて発表会を開催しました。製品自体は海外イベントなどで展示しているため完全な新製品ではないものの、あくまで企画段階だったものを実際に製品化するためのプロジェクトであることに加え、パナソニックの新たな取り組みとしてもニュースバリューはあるだろう、と判断したためです。
発表会のメディアへの案内は開催日の約1週間前をめどに送ります。これは媒体やスケジュールにもよるので必ず正しいというわけではないのですが、案内状は早く送っても他の発表会との兼ね合いがわからないため、結局のところ直前まで出欠状況がわからないことも多々あるからです。逆に早く送りすぎると意識から忘れられてしまい、再度開催日程を送らなければいけない、ということもあるため、開催日の1週間前、が1つの目安としてお勧めです。
また、発表会の参加は友達の約束と違って「先に約束したから」ということよりも「ニュースバリューの高さ」ということのほうが重要になります。いくら早めに案内を送っていても、その後でよりニュースバリューの高い発表会が入ってしまえばメディアとしてもそちらに行かざるを得ないもの。そういう意味では早めに送ることよりも、親しい記者の人がいれば「発表会の開催を検討している日程に他の発表会が重なっていないか」を相談することのほうが重要かもしれません。
メディアへ直接乗り込んで製品を紹介する「キャラバン」アプローチ
なお、発表会は多くのメディアの方へ直接お話できるメリットがある反面、会場の準備や費用といったコストが発生したり、起業したばかりのスタートアップでは発表会を開催してもメディアに来てもらえるかわからない、という心配があるかもしれません。そんな時におすすめなのが「キャラバン」という手法です。
これはメディアに来てもらうのではなく、こちらからメディア企業を訪問して製品を紹介するというやり方。企業の数だけ訪問する必要はありますが、相手が興味さえ持ってくれれば比較的スケジュールの調整がつけやすく、会場を押さえるコストも必要ないというメリットがあります。
メディアへの連絡先は、各媒体のWebサイトなどに記載されているリリース送付先やフォームを調べるとわかります。近々発表する新製品があり、発表前に事前説明したいという旨に加えて、製品の概要をしっかり伝え、メディアにとって話を聞く価値があるかどうかを判断してもらえるような情報もきちんと用意しておきましょう。
また、冒頭で説明したとおり、クラウドファンディングは初速が非常に重要なため、事前説明の際にはクラウドファンディングがいつから始まり、その日から記事にできるという解禁日を定めておきましょう。媒体としてもリンクできるWebページがあったほうが紹介しやすいですし、解禁日もきちんとお願いすれば基本的には守ってもらえるものです。
話題になるのはメディアだけではありません。プロジェクトのメンバーはもちろん、会社の同僚や知人たちのSNSも情報の拡散には重要な存在です。親しい友人などにはある程度プロジェクトの内容を相談しておき、「プロジェクトが始まったらSNSで紹介してもらう、といった協力も必要不可欠です。
発表会の開催によって全体の過半数を占める初動を実現
こうした準備を踏まえて、WEAR SPACE projectでは10月2日にメディア向け発表会を開催。40を超えるメディアの方にお越しいただき、Webや新聞、テレビなどさまざまな媒体で取り上げていただきました。
まずこちらは10月2日〜31日の間に日別でご支援いただいた件数をグラフにしたものです。
グラフから明らかなように、プロジェクト開始から最初の2日間で多くの方にご支援いただくことができました。この2日間の支援数は10月の支援者全体の5割を占めており、冒頭で「初動が大事」と説明した通りの動きが現われています。
この「初動」を今回のプロジェクトの数字からより細かく見ていきましょう。
こちらのグラフはプロジェクト開始してから最初の5日間における、支援者のクラウドファンディングページ流入経路を分けたものです。どういうサイトを経由してクラウドファンディングサイトにアクセスしたのか、ご支援いただいた方のデータを分析してみました。
200人の支援者のうち3割以上の方は、メディアの記事を経由してクラウドファンディングページにアクセスしていることがわかりました。発表に当たり開催した発表会へ多数のメディアの方々にお越しいただき、結果として20ほどのWEBの媒体に記事として取り上げていただきました。この各社の記事がTwitterやはてなブックマークを中心に話題となり「初動」へと繋がっています。
さまざまな媒体で何度も話題に上ることがさらなる支援の伸びにつながる
初動におけるメディア記事と支援者との関連について、もう少し深く掘り下げてみましょう。まずクラウドファンディング開始から1時間毎の支援件数とメディアで公開された記事の総数の推移をグラフにしてみました。
プレス発表した初日なので当たり前といえば当たり前なのですが、初日の夕方くらいから公開された記事が増えるに伴い、支援数が一気に跳ね上がっています。
記事数が増えることで各メディアのフォロワーに対するインプレッションが増えるため、支援数も比例して増加するのは想像しやすいでしょう。その一方、掲載された記事数の伸びが緩やかになった翌日・翌々日にも支援件数がまた跳ね上がっていました。これは一体何が起きたのでしょうか。
この事象を分析するために、掲載された記事の総数ではなく、Twitterで「WEAR SPACE」という言葉でつぶやかれたツイート数を2時間毎に折れ線グラフにしてみました。
支援数とツイート数がほぼ同じ動きをしていることが分かります。多くの人にツイートされればされるほど、インプレッションが増えてWEAR SPACEの情報を触れる人は増えるわけですから、それが支援件数の増加につながったことがわかります。
また、グラフ上にWEBメディア名が書かれた吹き出しは、ツイートの件数を調べるにあたって活用した「Yahoo!リアルタイム検索」において、その各時間帯に「ベストツイート」に選ばれたメディアのツイートを指しています。その時間帯に一番影響力があったメディアとお考えください。
プロジェクト公開当時にはAV Watchの記事とツイートが非常に多くリツイートされていましたが、このように時間で区切ってみると1つのメディアだけではなく様々なメディアで話題になったことが支援数の伸びにつながった、とも考えられそうです。
もう一つ興味深い点は、AV Watchがその日話題になった記事と、前日に話題になった記事をツイートしていることでした。今回はWEAR SPACEが発表会当日の深夜0時と翌朝10時の2回話題になったトピックに選ばれており、結果的にAV Watchに合計3回記事をTwitterで紹介いただいたことが支援数が跳ねる結果となりました。
このように支援数とメディアに取り上げていただいた記事数、そしてTwitterでのツイート数を比較してみてみましたが、プロジェクトが始まってからなるべく多くのインプレッションを獲得することが重要だということがデータからもわかります。発表会の開催がきっかけとなり、その日のうちに多くのメディアの皆様に記事にしていただき、それが短い期間で高い密度の話題となり、Twitter上で話題が連鎖することに成功しました。
支援者の約8割がクラウドファンディングを「即決」
今回私たちがクラウドファンディングを選んだのは、どれくらいの人が実際にお金を出して欲しいといっただけるかを把握できるという理由もあります。
「ああ、これは待ち望んでいた商品だった!」「良いプロダクトだ、応援したいな」と思ってもらえるからこそご支援いただけるわけですが、支援者の方々は一体どれくらいの時間で支援を決めているのでしょうか。
こちらのグラフは、支援者がクラウドファンディングのページを訪問してから支援完了ページにアクセスするまでにどれくらいの時間がかかったのか表したものです。
左のグラフはクラウドファンディングを開始した2日から31日までの間に支援していただいた方を対象にしています。初回にアクセスしてから「10分以内」が5割以上と一番を占めており、9割が1日以内に支援を決めていました。
もちろん左のグラフは一番支援が多かった最初の2日間にご支援いただいた数も入っているので、1日以内に決めた方が多数なのは当然といえます。そこで1日あたりの支援者数が落ち着いた4日後から31日までのデータを分析したのが右のグラフです。
左のグラフよりも割合が小さくなりますが、初回訪問してから一日以内に支援を決めた方の総数は81%と依然として高い数字を保っていました。この数字から考えられるのは、WEAR SPACEという商品は、必要としていた人には支援を即決していただけるほどの商品であるということです。その一方で「ちょっと気になっていて、検討した上でついに支援を決めた!」といった少し慎重なユーザーの割合は全体でみると少ないといえます。
ただし、このグラフはGoogle Analyticsの「ユーザー」データを元に作成しているため、実際に即決した人は81%よりも低くなります。例えば「スマホでTwitterを通じてWEAR SPACEのことを知っていたが、実際に支援をする時にはPCを使った」という場合にはAnalytics上では別のユーザーとして扱われてしまいます(デバイスが異なるアクセスだと別々の「ユーザー」として扱われるため)。そのため一概に支援者の8割が即決されたとは言いにくいのですが、その方を抜きにしても、かなりの割合で即決される商品だと考えられるのではないでしょうか。
クラウドファンディングポータルからの流動や製品の相性も支援の伸びに重要な要素
「クラウドファンディングは初動が大事」という話をメディアとSNSの側面から説明しましたが、クラウドファンディングのポータルサイトに対する注目度を上げるという意味でも「初動」は非常に大事です。
こちらのグラフは、クラウドファンディングの開始から週単位で、支援者が最初に訪問した流入元を分けてその推移に並べたものです。
はじめの1週目はメディアによる流入が当然高く、また他の流入よりも大きな割合を占めていました。しかし、週を重ねる毎にクラウドファンディングのプラットフォームである「GREEN FUNDING」からWEAR SPACEを知り、支援を決めた方がメディアを超えて増加をしていました。この「GREEN FUNDING」とは、GREEN FUNDINGのポータルサイトやメールマガジンが流入元になって、支援をしていただいた方を指しています。
メディアによる流入とGREEN FUNDINGの流入において、支援者数の割合は1週目は3:2とメディアのほうが多かったのですが、5週目になるとほぼ1:1と横ばいになりました。どうしてGREEN FUNDINGによる増加が拡大してのでしょうか。それはポータルサイトに掲載されたからにあります。
クラウドファンディング各社ポータルのトップページには「新着プロジェクト」や「スタッフおすすめプロジェクト」「人気上昇中のプロジェクト」などのプロジェクト一覧があります。プロジェクト開始段階では新着に入れていただけますが、おすすめや人気急上昇の枠に入るにはある程度の実績が必要になるだろうと思われます。そのためには支援者数が必要になるわけですから、この枠を狙うためにはやはり先程述べた「初動」は無視できません。
また、前回の記事でも分析した通り、クラウドファンディングのプラットフォームには各社の支援実績にそれぞれ特徴がありました。今回GREEN FUNDINGを選択したのは音楽関連の製品をクラウドファンディングするには実績があると考えられるのが一つの理由ですが、GREEN FUNDINGのポータルサイトやメールマガジンから流入があることを考えると、WEAR SPACEはプラットフォームの属性に適切な商品だったとも言えるかもしれません。
特にGREEN FUNDINGにおいては、一般のメールマガジンほかにTポイントメールなど他のメールマガジンなどの流入媒体をお持ちであり、そこからの支援者の獲得もありました。クラウドファンディングでの資金調達を検討していて、プラットフォームを選ぶ時は、各社が持っている流入の可能性のある施策とそのコンテンツも調べたうえで検討すると良さそうです。
以上、前後編に渡ってWEAR SPACEのクラウドファンディングを分析してみました。12月11日のクラウドファンディング終了期間まで引き続き支援を受付しておりますので、よろしければ応援をお願いいたします。